東京を拠点に活動するポップデュオ、YONAGI。
高校の同級生であるkotaro (vo)とtosei (prod)により2023年に結成された彼らは、ヒップホップのエッセンスを取り入れた耳触りの良いサウンドと、なめらかに溶け込むボーカルによる独自の楽曲を発表している。
前作『1 room journey』から続く物語として位置づけられた2nd EP『明け方5時の海岸通り』は、「時間と記憶の循環」をテーマに、夜明けを迎えた後の情景と感情の機微を描き出した一作だ。
今回、新作のリリースにあたり、彼らの音楽のルーツから、緻密に計算された制作の裏側、そして「空間」を見据えた今後の野望まで、語り合ってもらった。

高校の軽音部から始まり、中野の制作拠点で「YONAGI」になるまで
——まずはYONAGIの結成の経緯からお伺いさせてください。情報には「東京を拠点に活動する、高校の同期である2人で2023年に結成」とありますが、元々はどういった経緯で結成されたのでしょうか?
tosei:一緒に組もう、みたいな感じではなかったよね。なんとなくの流れで。もともと高校の軽音部で、友達の紹介で出会ったんです。
kotaro:最初は別々のバンドをやってたんですけど。
tosei:元々kotaroの方が音楽をやってて、僕の方は初心者っていうか、素人だったんですよね。
——kotaroさんはどういうものをやっていたのでしょうか?
kotaro:ボーカロイドを買って作ったりしてましたね。最初はDTMからで、本当にインストから作ってて。高校入ったぐらいからは、ちょっと自分で歌うのも作ってみようと思って。
——DTM以前は楽器に触れた経験はなかったのでしょうか?
kotaro:ピアノは小学校2年生ぐらいにクリスマスプレゼントでキーボードを買ってもらって、レッスン機能とかでドビュッシーとか弾いてたんですけど。
でも、3、4年生の時に合唱コンクール的なのがあって、その伴奏に立候補したりして。
そこで「音楽が面白いな」ってなって作りたくなって、中学くらいから作って、高校から歌も乗せようってなったっていう……そういう発展の仕方ですね。
——高校1年生から一緒なのですか? クラスは?
tosei:いや、クラスは同じになったことはなくて、本当に部活だけですね。共通の友達がいて。
tosei:固定バンド制なんですけど、僕が軽音部に入ったのって4月からじゃなくて、途中で「入ってくれよ」って誘われて入ったら、彼のバンドがあったっていう。
——でも、その時から一緒に音楽を作ろうっていう感じではなかった?
tosei:そうですね。コロナとかで全然バンドもできなくなって。
ただ2人で、僕がちょっとオリジナル曲を作ることに興味を持って。そこで2人で一緒にパソコンをいじるみたいな。
そんな感じでなあなあでやってて、2023年ぐらいに「曲を出すか」って形になり始めたんです。
——2023年になってマインドが変わったきっかけは何だったんでしょうか?
kotaro:曲ができたからかもね。完成したから、「これなんかいいね」って。
tosei:あと、僕の大学の友達が中野に防音設備のあるスペースを持っていて。レコーディングスタジオというわけではないんですけど、今でもそこで制作させてもらっていて、良い音でレコーディングできる環境ができたのも大きかったと思います。
その場所との出会いと、曲が完成したタイミングが重なって、「アーティストとしてやれる」と思えたんだと思います。

「YONAGIらしさ」の正体。ヒップホップとJ-POPの境界線
——楽曲を聴かせていただくと、ヒップホップやオルタナティブR&Bといった要素を感じます。そういったジャンル感は意識してやっているんでしょうか? むしろ好きなものを作ったらこういうスタイルになりましたか?
tosei:意識してるに近いかな。制約はありますね。「これはYONAGIじゃないな」って曲も発生しうるというか。
——その「YONAGIじゃない」っていうのは何なのでしょうか、すごく気になりますね。
kotaro:とにかく奇抜とかではないけど、ヒップホップだけどヒップホップすぎてもダメだよね、みたいな。そこにしっかり日本語ポップスの要素と、J-POP的な親しみやすさを入れる。
tosei:音的にすごい刺激的なものばかりっていうよりは、日本的な詩的なアプローチとか、そういうところでちょっとオルタナティブなアプローチを見せたいっていう感じです。
フランク・オーシャンとかが好きっていうのもあって。でも確かにR&Bではないし、J-POPであることは何か1個ありますね。
——楽曲制作はどのように進めているんですか?
tosei:基本僕がデモビートを作って、それを送ってちょっと展開を作ってもらったり、歌を乗っけてもらって。
それでまたビートをいじったりしてブラッシュアップしていく感じです。本当に2人で作っていくという。
ギターフレーズと、地下鉄で浮かんだ『明け方5時の海岸通り』
——では、今回のEP『明け方5時の海岸通り』について聞かせてください。どういう経緯でこの作品を作ろうと思ったのでしょうか?
tosei:「明け方5時の海岸通り」っていう曲が、まずデモとしてあったんです。なんとなくこの曲と同じような空気感で、「i likeが尽きぬ毎日を」っていう曲ができて。
これは同じパッケージングができる曲だなと思って狙って作っていったんですけど、その中で「明け方5時の海岸通り」のフレーズをサンプリングできるじゃんって思って。
——「明け方5時の海岸通り」という言葉は、何がきっかけで出てきたのでしょうか?
kotaro:そもそもギターフレーズのビートが送られてきて、当時は割とDAW上で先にメロディーを打ち込んでたんですよ。
それを電車とかで聴きながら、何か歌詞ハマんないかなってずっとループしてて。ハマったのが「明け方5時の海岸通り」だった。
——電車の中で浮かんだのでしょうか?
kotaro:地下鉄ですね。程よく混んだ地下鉄の、立ってて景色が見えない中で。景色が見えないからこそ、自分の想像の中で浮かんだんですよ。
kotaro:コンセプトとして「朝っぽい」「海岸っぽい」っていうのはそもそもあったんですけど、メロディーを付けた後に聴きながら、一番ハマるのが「明け方5時の海岸通り」だったっていう感じですね。
——なるほど。実際に海を見ながら書いたというより、空想の世界や心象風景から出てきた言葉なのですね。
kotaro:そうですね。聴き手に対しても、「この景色を見てください」ではなくて、「あなたの景色に寄り添えるもの」みたいな考え方で作っています。
音と自分の気持ちが混じり合うような感じが好きなんです。引っぱられるとか背中を押されるというよりは、空間に溶け出していくような。
——歌詞には「君」という存在が出てきます。特定の誰かを意識して書いているのでしょうか?
kotaro:誰かに対して書いてる歌詞っていうのは、多分YONAGIの曲には全部入ってると思うんですけど、特定の人っていう感じではあまりしてないかもしれないです。
家族だったり、恋人だったり、友人だったり、自分にとって大切な人。抽象度が高いからこそ、聴く人に委ねている部分はあります。

五度圏を巡るキー。時間と記憶を「循環」させる音楽的ギミック
——今回のEPのテーマは「時間と記憶の循環」とのことですが、この構成はどのように決まっていったのでしょうか?
tosei:最初にできていたのが、1曲目と4曲目と5曲目でした。
その3曲のキーを五度圏上で見た時に、2曲目と3曲目のキーを加えることで、EP全体を循環させられることに気づいたんです。
——循環する、とは?
tosei:1曲目の「明け方5時の海岸通り」と5曲目の「記憶は溶けて」は、1曲目をサンプリングしているのでどちらもEメジャーなんです。
4曲目の「i likeが尽きぬ毎日を」はD♭メジャーで、この3曲のキーを五度圏上で見た時に、間にGとB♭の曲を入れると、E→G→B♭→D♭→Eと一定の間隔で巡りながら一周できることに気づいて。
そこから2曲目をG、3曲目をB♭で作って、EP全体で循環する構成にしました。

——すごい! そんな緻密なギミックが仕掛けられていたとは。
tosei:そういうコンセプチュアルなのを意識してるから、それで苦戦したんですよ。Gが難しくて(笑)。男性の音域的に高い音を出そうとするとギリギリ裏声になっちゃうし、ギターのフレーズも作りにくくて。
でも、そういう「制約」を作ってから、知ってることを頑張って入れていくっていうやり方をすることが多いですね。
歌詞のフロウと、音階の対立がもたらすカタルシス
——「明け方5時の海岸通り」のサビの歌詞は、韻の踏み方がとても心地いいですよね。
kotaro:サビは、まず韻から考えるんですよ。「明け方」「欠けた月」って。1個フレーズが決まった後に、韻で固めるんです。それで80%ぐらい制約を作ってから、言いたいことを頑張って入れる。
tosei:「僕が一人 君も一人」のところは、最初だけ「僕が一人、君も一人」って下から上がってくるんですけど、その後のコーラスは上でステイしてるんです。同じメロディーだけど変化を帯びてる。
kotaro:そういう関係性があるから、ここの2つはフレーズとして対立してないといけなかった。
——ロジカルに作っているのに、最終的に出てくるものはすごく叙情的で、曖昧な感情を揺さぶるものになっているのが面白いですね。
kotaro:そうなんですよね。ふわっとしたものをすごくロジカルに作るから面白いなと思っていて。
2曲目の「曇り空に吸い込まれるように」や、3曲目の「レイジーサンデーモーニング」も、サビのメロディーと語感から生まれています。
「レイジーモーニング」だと四文字じゃ足りないから、「サンデー」にしちゃおう、みたいな(笑)。音感で気持ちよさを理解して、そこに当てはめていくんです。

YONAGIの現在地と、これからの「野望」
——YONAGIの楽曲は聴きやすさがある一方で、今後さらにYONAGIらしさを強くしていくために、挑戦したいことはありますか?
tosei:今の曲は聴きやすさがある一方で、まだそこまで強いフックがあるわけではないと思っていて。フランク・オーシャンとかも聴き心地はいいけど、なぜあそこまでフランク・オーシャンらしさが出ているのか。
僕らも今後は、これまで使ってこなかった音とかアレンジにも挑戦して、YONAGIらしさをもっと強くしていきたいと思っています。
——今後、ライブの予定などはあるんですか?
kotaro:ライブは……まあ、そんなにしたくはないです(笑)。
tosei:するとしても、ただ普通のライブハウスでやるのとは違う、何かコンセプトが欲しいんですよね。空間オーディオもそうだし、kotaroが建築を学んでいるので、「空間」みたいなものと最終的に組み合わせられたらなと思っています。
ZEPPでやるのが目標とかではなくて、ZEPP規模の「別のエクスペリエンス」がないかなって考え続けること。それがYONAGIとしての目標ですね。
——なるほど。分かりやすい「どこどこのステージに立つ」という目標ではなく、YONAGIにしかできない体験を作っていくと。
tosei:そうですね。レーベルの「ALTENCE Records」も、しっかり自分たちのチームの仕方を持って、新しいものを提示していく形にしたいと思っています。
間口は広いけど、オルタナティブなエクスペリエンスやセンスを提供できるような。人間としての柔らかさはありつつも、音楽性としてはソリッドな部分も持ち続ける。それを守っていきたいですね。

リリース情報

YONAGI『明け方5時の海岸通り』
Release Date: 2026.7.22(水)
Format: Digital EP
Label: ALTENCE Records
Release URL: https://altence.jp/release/5am
Tracklist:
明け方5時の海岸通り
曇り空に吸い込まれるように
レイジーサンデーモーニング
i likeが尽きぬ毎日を
記憶は溶けて
アーティスト情報

YONAGI
東京を拠点に活動するポップデュオ。高校の同期であるkotaro(vo)とtosei(prod)により2023年に結成。
ヒップホップのエッセンスを取り入れた耳触りの良いサウンドと、なめらかに溶け込むボーカルによる独自の楽曲を発表している。







